(連載4-1)円蓋部髄膜腫
【造影プロトコル】脳血管CTAの実践的撮像4 柏葉脳神経外科病院 濱口 直子 先生
症例の概要
髄膜腫は硬膜を由来とする腫瘍で、上矢状静脈洞の側方(傍矢状部)や大脳鎌といった頭頂部、さらに蝶形骨縁や鞍結節などの頭蓋底部にも発生します。
その中でも、円蓋部髄膜腫(convexity meningioma)は、大脳を覆う頭蓋骨の丸い蓋(円蓋部)に発生するタイプの髄膜腫です。
円蓋部髄膜腫は脳の表面に位置するため、他の部位に発生する髄膜腫比べて手術支援画像の作成が比較的容易であると考えられます(Fig.1)。
Fig.1 左円蓋部に存在する髄膜腫
栄養血管が豊富で血流に富むため、造影効果が高く
ガドリニウム(Gd)造影剤を用いた造影3D-T1強調画像では、腫瘍が高信号で明瞭に描出されます。
|
髄膜腫では、腫瘍の付着部から硬膜に沿って尾を引くような連続的な造影効果がみられることがあり、これをdural tail sign(デュラルテールサイン)と呼びます(Fig.2 黄色→)。
三次元表示では、腫瘍本体だけでなく、このdural tail signの部分も病変として可視化することが、診断や術前評価において有用であると考えられます。
Fig.2 髄膜腫では、腫瘍が硬膜と直接癒着し、その癒着部が造影剤によって強調され、尾状のラインのように見えるdural tail sign(黄色矢印→)が認められることがあります。 |
当院における脳腫瘍の術前検査では、ガドリニウム(Gd)造影剤の使用が禁忌であるなどの特別な症例を除き、薄いスライス厚のガドリニウム(Gd)造影3D Gradient Echo系T1強調画像を撮像しています。
CTでは、単純CTと造影剤のファーストパスをとらえたCTAを撮影し、CT/MRI融合画像(Fusion Image)を作成しています。このうち単純CTはサブトラクション処理のマスク画像としても使用しています。
なお、腫瘍描出はMRIで行っているため、CTにおいて平衡相の撮像は行っていません。これは、平衡相撮影による患者被ばくを低減すること、および良好な組織コントラストを持つMRIデータから腫瘍を抽出する方が適しているとの判断によるものです。
Fig.3 3D-CTAとGd造影T1強調画像における腫瘍と脳実質のコントラスト 髄膜腫は血流が豊富な腫瘍であり、3D-CTAでも描出は可能です。 しかし、MRIのGd造影T1強調画像の方が腫瘍と脳実質とのコントラストに優れていることから、当院では腫瘍の抽出において基本的にMRIデータを使用しています。 |
円蓋部髄膜腫の場合、病変部に最も近い部位から開頭を行うため、開頭範囲を決定する際の参考として、縫合線と腫瘍との位置関係を示す画像も手術支援画像として有用です。
1.Fusion画像を作成するために必要なデータ
3D-CTA検査では、脳動脈瘤の撮影時と同様に、サブトラクション用のマスク画像として取得した単純CTデータから、脳表や頭蓋骨などの構成要素を作成しています。
キヤノン社製のCT装置を使用する場合、以下のように再構成条件を使い分けています:
脳表作成用には、Beam Hardening Correction(BHC)補正ありのFC26を使用
骨構造やサブトラクション用マスク画像には、BHCなしで高分解能のFC44を使用
CT-Angioデータも、マスク画像と同様にFC44で再構成
サブトラクション画像は、通常は頭蓋全体をカバーするFOVで再構成していますが
微細な流入血管の確認が必要な場合は、拡大再構成したサブトラクションデータを使用しています。
MRIデータにおいては、Gd造影3D Gradient Echo系T1強調画像を用いて腫瘍の抽出を行い
脂肪抑制ありの3D FLAIRが撮像可能な場合は、脳表の作成にも使用しています。
脳表の作成には、CTのBHCあり画像も使用可能ですが、後頭葉や小脳部ではCTによる脳溝の描出が不良なことが多く、この領域では3D FLAIR画像の方が良好な脳表画像を得られる傾向があります(Fig.4)
Fig.4 当院の円蓋部髄膜腫で使用するCT,MRIデータの一例 |
当院のGE社製MRI装置では、Gd造影3D Gradient Echo系T1強調画像として3D SPGR(スライス厚:1.2mm)を使用しています。
また、3D FLAIRを撮像する場合は、脂肪抑制ありのCube FLAIR(矢状断撮像、スライス厚:1mm)を用いてデータを取得しています。
2.臨床に提出する画像
①骨の3D作成
外側後頭蓋下開頭では、骨窓を開ける位置の目安として、頭蓋骨表面のラムダ状縫合・冠状縫合・後頭矢状縫合と腫瘍との位置関係を確認し、骨削除ラインの決定を行います。
そのため、これらの縫合線を明示した頭蓋骨の3D画像を作成しており、術前計画において有用です(Fig.5)。
Fig.5 骨窓を開ける削除ラインの決定のための骨3D画像 縫合線が確認しやすいオパシティカーブを使用して1回転画像を作成している |
また、縫合線と腫瘍との位置関係を示す方法として、骨構造の不透過度を段階的に下げて表示することで、縫合線・血管系・腫瘍との関係性がより視覚的に理解しやすい画像となります。
そのため、実際の開頭を想定した角度からの骨透過画像を作成しています(Fig.6~Fig.7)
Fig.6 骨の不透明度を徐々に下げた表示 実際の画像作成はシネ表示またはムービーのツールを使用している |
Fig.7 Fig.6の動画 |
②腫瘍塞栓(血管内治療)のための流入動脈の描出
髄膜腫の栄養血管は、主に外頚動脈の硬膜枝が関与しており、特に顎動脈の分枝である中硬膜動脈(middle meningeal artery:MMA)が関係していることが多くみられます(Fig.8)。
術前に栄養血管に対する塞栓術を行うことで、術中の出血を軽減できる場合があるため、当院では血管撮影検査に先立ち、栄養血管の描出画像を作成しています(Fig.9〜Fig.11)。
この栄養血管の描出画像は、血管撮影時に正確な位置同定ができるように以下の2種類を作成しています:
①血管・腫瘍・骨を半透明で表示した画像
②血管と腫瘍のみを描出した画像
これにより、術前計画や塞栓術における視認性が向上し、安全かつ的確な処置が可能となります。
Fig.8 腫瘍と栄養血管を描出した画像 円蓋部髄膜腫の多くの症例では、中硬膜動脈(MMA)が主要な栄養血管となっていることが多く、手術支援画像作成の初期段階で外頸動脈の走行や分岐の確認を行っています。 |
Fig.9 実際の臨床では、**左右方向からの1回転のシネ画像(cine image)**を作成し、血管走行の立体的把握に活用しています。 |
Fig.10 骨(半透明), 腫瘍, 栄養血管の表示の動画 |
Fig.11 腫瘍, 栄養血管の表示の動画 |
③骨構造、動脈・静脈、腫瘍、脳実質の平面カットのシネ画像を作成
平面カットは、3Dのボリュームデータをある方向から一定間隔で連続的にスライスする処理手法であり、(動画で見るとその効果が分かりやすいです)、複雑な構造物の位置関係を断面ごとに詳細に確認できる点で非常に有用です。
脳腫瘍の症例においても、正常な脳実質や動脈・静脈と腫瘍との位置関係を視覚的に把握する目的で、この処理を活用しています。
本症例では、前後方向・上下方向・左右方向それぞれにおいて、解剖学的構造が確認可能な範囲で1.0mm間隔にてスライスを行い、平面カット画像を作成しました(Fig.12〜15)。
Fig.12 Fusion画像での平面カットを使用した画像 a: 上下方向からの観察, b: 前後方向からの観察, c:左右方向からの観察 |
Fig.13 上下方向に、1.0mm間隔で作成した平面カットによるシネ画像 |
Fig.14 前後方向に1.0mm間隔で作成した平面カットによるシネ画像 |
Fig.15 左右方向に1.8mm間隔で作成した平面カットによるシネ画像 |
④腫瘍近傍の動脈・静脈と腫瘍の位置関係を観察する画像
開頭手術において腫瘍近傍まで到達する過程では腫瘍周囲の動脈・静脈の走行は極めて重要な情報となります。
しかし、通常の脳血管全体を描出した3D画像では、反対側の正常な血管の重なりにより、目的とする部位の観察が困難になることが少なくありません。
そのため当院では、病変部に限局した動脈・静脈と腫瘍との位置関係を明示する画像を作成しています(Fig.16〜Fig.19)。
画像の表示方向については腫瘍と血管系との空間的関係が明瞭に把握できるような角度を選定し、 複数方向からの1回転シネ画像を作成して術前評価に活用しています。
Fig.16 腫瘍近傍の動脈・静脈と腫瘍の位置関係を観察する画像 a: 外側方向からの観察, b: 内側方向からの観察, c:尾側方向からの観察 病変部に限局した画像を作成することで、対側の血管による重なりや描出不良が回避され複数方向からの観察が容易になっています。*黄色い血管は、腫瘍に近い動脈(硬膜枝)を描出 |
Fig.17 ほぼ解剖学的正面からの視点で、横方向に回転させたシネ画像(動画)を作成しています。 |
Fig.18 ほぼ解剖学的な頭蓋底の位置に相当する角度から、縦方向に回転させたシネ画像(動画)を作成しています。 |
Fig.19 腫瘍をほぼ正面から観察できる視点で、横方向に回転させたシネ画像(動画)を作成しています。 |
⑤脳表と動脈・静脈の画像及び動脈の画像
開頭手術では、硬膜を開けた際に最初に確認される血管は脳表静脈であり、その走行を把握することが侵入方向や侵入位置の決定において重要となります。本症例においても、同様の観点から脳表静脈の走行を事前に確認しています。
また、本症例は脳動脈瘤の精査ではありませんが、頭蓋内動脈のスクリーニング目的として、脳動脈全体・前方循環・後方循環の3パターンの画像を提供しています。
これら4種類(病変部含む)の画像については、横方向および縦方向の2方向からそれぞれ1回転のシネ画像を作成しています(Fig.20〜Fig.22)。
Fig.20 脳表と動脈・静脈と腫瘍の画像および動脈のスクリーニング |
Fig.21 脳表、脳表静脈、頭蓋内動脈と腫瘍を描出した横方向に1回転させたシネ画像(動画) |
Fig.22 頭蓋内動脈全体を横方向に1回転させたシネ画像(動画) |
⑥開頭シミュレーション
円蓋部髄膜腫では、病変部に最も近い部位から開頭することが多いため、縫合線と腫瘍との位置関係や、開頭時の体位を考慮したうえで、骨窓を開ける位置の検討が重要となります。
当院では、開頭シミュレーションに仮想内視鏡モード(視野角:30°)を用い、実際の手術体位に近い表示となるように設定しています(Fig.23〜Fig.24)。
また、術者は開頭手術中に顕微鏡の視軸を変更しながら病変部を多方向から観察するため、3D画像も現実的な観察方向を想定して視点を変えながら複数方向から作成しています。
Fig.23 円蓋部髄膜腫の開頭手術での病変への侵入経路の1例 |
Fig.24 円蓋部髄膜腫の開頭手術での病変への侵入経路の1例(動画) |