(連載3)顔面痙攣に対する手術支援画像

(連載3-1)顔面痙攣に対する
手術支援画像

【造影プロトコル】脳血管CTAの実践的撮像3 柏葉脳神経外科病院 濱口 直子 先生

症例の概要

Fig.1左前下小脳動脈の顔面神経圧排による顔面痙攣症例に対するVR画像

本症例は、左前下小脳動脈(黄矢印)が顔面神経を圧迫することで発症した顔面痙攣症です。本症例に対し、微小血管減圧術(Microvascular Decompression: MVD)の手術支援画像を作成します(Fig.1)

【MVDの対象疾患】

・ 顔面痙攣

・ 三叉神経痛 等

【発症原因と手術の目的】

頭蓋内の動脈(稀に静脈)が、顔面神経または三叉神経を圧迫し、顔面神経では痙攣、三叉神経では痛みが生じる疾患です。

MVD手術により、圧迫している血管を神経から剥離し、圧迫を解除することで症状を改善します。

【MDV手術の概要】

● 手術方法:外側後頭下開頭により、後頭骨の外側に骨窓を設け、小脳橋角部まで侵入します。

後頭骨の外側の骨窓は、S状静脈洞(Sigmoid sinus)と横静脈洞(Transver Sinus)の間であることが多い

● 圧迫部位:脳幹から出た直後の部分(Root Exit Zone:REZ)が多く、主に動脈が圧迫しています。

●画像描出:脳幹や脳神経や頭蓋内の血管が必要となる。

血管描出:MRAまたは3D-CTAを使用

脳神経・脳幹描出:Steady Stateシーケンスを使用

(Fig.2)左顔面痙攣症例でのREZの場所

【Fusion画像の作成に必要なデータ】
  1. CTデータ
    • 単純CT(3D-CTA検査):サブトラクション用のマスク画像として使用
      • 脳表:BHC補正あり(FC26)
      • 骨・サブトラクション用マスク:BHC補正なしの高分解能(FC44)
      • CT-Angioデータ:FC44で再構成
    • 再構成範囲
        • 頭蓋全体表示:FOV全体
        • 詳細表示:拡大再構成(FOV:10cm)
  2. MRIデータ
    • 脳神経描出・脳表作成:Steady Stateシーケンスおよび3D FLAIR
      • Steady State:FIESTA-C(スライス厚:0.6mm)
      • 3D FLAIR:脂肪抑制ありCube FLAIR(Sagittal撮像、スライス厚:1mm)
  • 脳表画像の選定
    CTでは後頭葉や小脳部分の脳溝が不鮮明なため、本症例では3D FLAIR画像を採用し、良好な脳表画像を作成しました(Fig.3, 4)

Fig.3 本症例で手術支援画像作成に使用したデータ。

FC26とCube FLAIRによる脳表画像のどちらが良いか判断するため、単純CTでのFC26の再構成は必ず行っている。結果この症例では、Cube FLAIRの方が脳溝が明瞭だった。

Fig.4 CTとMRIの脳表画像を確認した血管、本症例ではCube FLAIRの方が脳溝が明瞭だった。

臨床に提出する画像

①骨の3D画像作成

外側後頭蓋下開頭では、骨窓を開ける位置決定に以下のポイントが有用です。

アステリオン:頭蓋骨表面の1点(ラムダ状縫合 頭頂乳突縫合および後頭乳突縫合の合点)

アステリオンを確認し、骨窓の削除ライン等を決定します。よってアステリオンの描出も含めた頭蓋骨の3D画像を作成します。(Fig.5)

Fig.5 アステリオンの確認も含めて頭部全体の骨情報を表示

②病変近傍のFusion画像

病変近くの動脈、脳神経、脳幹構造を詳細に描出するため、サブトラクションデータを用いたFusion3D画像を作成します。

●作成方法:

・解剖学的に正面を向く角度に3D画像を調整し、左右方向と上下方向でそれぞれ1回転の画像を作成します。

・脳幹、脳神経、血管系を描出する場合、縦回転、横回転のみならず、REZが判る最適な角度で1回転の画像を作成します。

・画像作成は、病変部が見えない位置からスタートします(Fig.6-9)。

Fig.6 病変部の血管、脳神経、脳幹を描出したFusion画像

a:左右1回転 b:上下一回転 c:病変が分かりやすい角度での1回転

Fig.7(動画) 左右方向1回転

Fig.8 (動画) 上下方向1回転

Fig.9 (動画)病変部の動脈と脳神経が確認できる方向で1回転

●視認性向上:

責任血管を通常の動脈と異なるカラーで表示し、病変部を強調します。

・当院では顔面神経や内耳神経と色分けし、舌咽神経・迷走神経を緑で表示します。

椎骨脳底動脈は、半透明表示し、病変部の拡大画像も追加します(Fig.10‐13)

Fig.10 椎骨脳底動脈を半透明にした病変部の血管、脳神経、脳幹を拡大表示したFusion画像

a:左右1回転 b:上下一回転 c:病変が分かりやすい角度での1回転

Fig.11(動画) 左右方向1回転

 

Fig.12(動画)上下方向1回転

Fig.13(動画)病変部の動脈と脳神経が確認できる方向で1回転

ポイント:Steady Stateシーケンスの撮像について

顔面痙攣や三叉神経痛の手術支援画像

・手術の侵入方向に存在する舌咽神経迷走神経を描出することで、術野に近い画像を作成できます。椎骨動脈を移動する手術では、副神経の描出も必要です。

●撮像方法

Coronal方向で撮像し、三叉神経から副神経まで広範囲に脳神経を観察します。脳幹後面に並行する角度で撮影し、返りのアーチファクトを防ぎます。

スライス厚は、0.6mmを採用。3Dではパーシャルボリューム効果により神経の描出が難しくなるためです(Fig.14)。

Fig.14 MVD手術でのSteady Stateシーケンスの撮像範囲とスライス厚

a:Coronal撮像でのFOV b:0.6mmスライス厚での顔面神経(矢印) c:1.2mmスライス厚(仮想的)での顔面神経(矢印)3Dにした場合には、2Dでの僅かな描出差でも神経描出の画質は異なる

③ 骨構造、動脈・静脈、脳神経、脳実質のシネ画像(平面カット)

●平面カットの手法

・概要

平面カットは、3Dボリュームデータをある方向から一定間隔でカットする手法です(動画を参照)

・平面カットの利点

・詳細な構造把握:断面ごとに様々な構造物の位置関係を確認できるため、複雑な構造の描出に有用です

・動脈と脳神経の関係:動脈、脳神経、および周囲の構造を任意の断面で確認でき、詳細な位置関係を把握しやすくします。

●本症例の処理(Fig.15~18)

・カット方向

・前後方向

・上下方向

・顔面神経が縦長に見える方向

・カット間隔

・0.5mm間隔でカットし、詳細な解析に適したデータを作成しています。

Fig.15 Fusion画像での平面カットを使用したシネ作成

a:上下方向からの観察 b:前後方向からの観察 c:顔面神経に対し長軸に観察できる方向

Fig.16(動画)上下方向に0.5mm間隔で作成した平面カットによるシネ画像

Fig.17(動画) 前後方向に0.5mm間隔で作成した平面カットによるシネ画像

Fig.18(動画) 顔面神経に対して長軸に観察できる0.5mm間隔で作成した平面カットによるシネ画像

④脳表と動脈・静脈の画像 及び 動脈の画像

脳表静脈は、開頭手術で硬膜を開けた際に最初に確認する血管です

脳表静脈の走行の確認は侵入方向や位置を決定するために重要です。

脳動脈瘤の精査ではありませんが、頭蓋内動脈のスクリーニングとして以下の画像を提供しています。

  • 脳動脈全体
  • 前方循環
  • 後方循環

これらの画像は、左右方向・上下方向の2方向で1回転の3D画像として作成しています(Fig.19〜23)。

 

Fig.19 脳表と動脈・静脈の画像および動脈のスクリーニング

Fig.20(動画)頭蓋内動脈全体を左右方向に1回転させたシネ画像

Fig.21(動画)脳動脈内全体を左右報告に1回転させたシネ画像

Fig.22(動画)前方循環の動脈を左右に1回転させたシネ画像

Fig.23(動画)後方循環の動脈を左右方向に1回転させたシネ画像

⑤開頭シミュレーション

●手術方法

当院のMVD手術による、外側後頭下開頭では、S状静脈洞(Sigmoid sinus)と横静脈洞(Transver simus)の間に骨窓を設けて小脳橋角部に侵入します。

●シミュレーション内容

骨の不透明度を下げ、S状静脈洞と横静脈洞の位置関係を3D画像で確認し、開頭範囲を決定している。シミュレーションであるため、開頭野を若干大きめに作成している。(Fig.23)

上縁:横静脈洞の下縁
前方:S状静脈洞の後縁(大後頭孔までは開放しない)
内側:ほぼ正中の半分以下程度

Fig.24 MVD手術での外側後頭下開頭の開頭範囲

骨の不透明度を下げることでS状静脈洞や横静脈洞との位置関係が分かりやすい

●侵入経路

仮想内視鏡モード(視野角30°)を使用し、患側を上にした側臥位で観察します。

・舌咽・迷走神経(緑色)を目印に侵入し、顔面神経や内耳神経を見上げる経路でREZに向かいます。
責任血管やその近くの血管は色分けし、術野での確認を容易にします(Fig.25-26)。

Fig25.顔面痙攣によるMVD手術での病変への侵入経路

Fig.26(動画) シミュレーション動画では、隔離する乳鎖乳突筋や開頭範囲に入る後頭動脈も含めて表示している。また、侵入経路で錐体静脈などが病変部と重なる場合は、静脈の不透明度を上げて目的動脈と脳神経が見やすいように調整している。

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